【日本のIT業界における技術者不足の問題に関するレポート】
【問題】
現在、日本の情報サービス産業界ではシステム開発現場において技術者の労働環境の悪化が深刻化しており、多くの離職者が発生している。その結果、業界全体でIT技術者が不足している。
【業界展望】
この問題を放置した場合、以下の事象が発生する。
1.離職者が増加することにより、業界のプレゼンスが著しく低下し、新規に業界へ参入する人員が減少する。その結果、情報サービス産業界の市場規模が縮小する。
2.事業会社は情報システムの更改ができないため、老朽化したシステムを使い続ける必要に迫られる。
3.老朽化したシステムを使い続けた結果、事業会社の生産性が低下し、最終的には日本経済全体が衰退する。
この問題を解決するため、情報サービス産業界は、会社組織の垣根を超え、全社横断的な行動を可及的速やかに実施する必要がある。
【解決するための施策】
システム開発会社が現在の経営環境で生き残るために必要な施策を以下に示す。1.経営・財務部門
⑴効率的な組織運営
⑵堅実な財務体制の確保
⑶有能な現場要員や外部有識者の経営部門への登用
2.人事・事業部門
⑴高いスキルを持った技術者の確保
⑵多様な人事制度と公正な人事考課の実施
⑶IT技術者の専門性を活かした事業運営
3.企画・営業部門
⑴緻密なマーケティング戦略の立案
⑵機動的な営業力の維持
⑶未開拓分野に対する積極的な情報収集
【分析】
1.職務構造
IT技術者の職種が多様化している中で、業界の収益構造の歪みによりIT技術者の職種がヒエラルキー化し、その結果、開発現場にカースト制度が生まれている。(職種が階層型になっている)
⑴会社が所属する階層に職務が固定化している
→プロジェクト管理、設計の上流工程の業務をやれるIT技術者は主契約者プロパーに限られ、下請け会社のIT技術者は製造、試験の下流工程の業務だけしかやれない。
ア.PM:五大SIer本社プロパー
ウ.PG:中小零細会社、個人事業主
*五大SIer:NTTdata、NEC、富士通、HITACHI、日本IBM
*参考【電電ファミリー】
日本のコンピューター産業界はかつて旧電電公社の電話交換機を作っていた会社がリーディングカンパニーとなっており、情報サービス産業界はその系譜を受け継いでいる。
・枢機卿:公社データ通信本部
⑵現場で働くIT技術者のスキルアップに対する意欲が低下している
→下請け会社に所属するIT技術者が情報処理に関する高度な資格を取得しても、下請け会社では上流工程を担当することができないため、所属するIT技術者は職種の転換や昇進が望めず、現行の職務を続けるしかないのが現状である。そのため下請け会社では現場で働くIT技術者の仕事に対するモチベーションが暴落している。
⑶生産性の低下
→システム開発工程全体が労働集約的な事業構造になり、コストダウンが進んだ結果、高度なスキルを持った技術者の雇用が業界全体として困難であり、特に下請け会社では顕著である。そのため、スキルやリテラシーが低い要員がIT技術者として開発案件に参画することになりデスマーチが常態化している。
2.業界構造
現場の開発作業に従事するIT技術者が一番低い賃金で働かされる収益構造になっている
⑴主契約者が一番儲かる収益モデル
→ITゼネコンと呼ばれる五大SIerが大規模開発案件において主契約者になることが多く、五大SIerによる収益の寡占化が進行している。
⑵逆階層型の要員構成
→大規模システム開発案件における主契約者は五大SIerを筆頭に大企業、下請けは中小零細企業で構成されている。そのため、必然的に主契約者の取り分が多くなる。
⑶利益の寡占化
→商流構造がピラミッド型であるのに対して要員構成は逆ピラミッド型であるため、案件から得られる収益は主契約者の取り分が多くて下請け会社に十分な利益が回らない。
(業界において資本規模が上位20%の企業が全体収益の80%を確保し、残り80%の企業が全体収益の20%を取り合う典型的なレッドオーシャン市場)
3.市場構造
技術仕様の汎用化によりシステム開発のコストが安くなったことにより労働市場においてIT技術者の市場価値が激減した
⑴OpenSourceSoftwareの普及によりPropertieSoftwareの優位性が低下した。
⑵ERPに代表される半完成品のパッケージが増えたことにより新規開発する部分が少なくなったため、技術者の稼働が減った。
⑶システム開発工程の標準化が進んだことによりIT技術者が単純労働者になった。
以上